理想郷

※画像はイメージです

2022年のスペイン/フランス映画『理想郷』を語っていいですか。

物語の舞台となるのは、スペイン北部ガリシア州のさびれた山村。そこへフランスからアントワーヌとオルガの夫婦が移住してきます。2人はスローライフに憧れを持っており、有機農業や古民家再生などを手がけて、村の発展に寄与したいという志を抱いていました。

そんなある日、村に風力発電を誘致する話が持ち上がります。貧困に悩む村人たちは金銭的な恩恵をもたらす計画に前向きですが、環境破壊を懸念するアントワーヌ夫妻は受け入れることができません。これが発端となって、双方の間には大きな溝が生じてしまいます。

小さな狭い村で、徐々に孤立していくアントワーヌ夫妻。隣に住むシャンとロレンソの兄弟は特に敵対的で、犯罪スレスレの嫌がらせを繰り返してきます。アントワーヌは兄弟の行為をビデオ撮影し、警察に通報することで対抗しようとしますが、それは双方の関係をより一層悪化させただけでした。

そして、ついに決定的な悲劇が起きていまいます。

この映画がおもしろいは、中盤で視点がガラッと変わるところ。前半ではあまりスポットを当てられなかった妻のオルガが、ここから後半を引っ張っていくことになります。彼女に視点が移ったことで、過疎の村で生きる女性の孤独や、母と娘の関係といった新たなテーマが加わり、物語にいっそう深みが増したように感じました。

上映時間は139分とちょっと長め。全編を覆う息苦しいほどの緊張感と閉塞感に疲労させられますが、見る価値のある興味深い作品でした。こういう心理スリラーは大好きです。

いかにも現実にありそうなリアルさのある話で、田舎と都会の対立という構造からサム・ペキンパー監督の『わらの犬』を思い出したりもしましたが、10年ほど前にスペインで実際に起きた事件がベースになっているようですね。当時の関係者はこの映画を見たでしょうか。見たとしたら、どんな感想を持ったでしょうか。

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